2014/12/23

「LOCAL NAVI 香港」枻出版社 2013年

香港に行くとき、いつも旅行という感覚じゃなくて、リサーチするという心構えで臨んでいる。香港は都市のジャングルみたい所で、人々はそれぞれの居場所を見つけて生きている。そんなジャングルの中には「平均的」な香港人というものはなく、それぞれがスタイルを持って生きてる。と、何度か香港を訪ねて感じた。

香港のストリートを眺め続けていも飽きない。市場でチープな代物を販売する売り子、食堂でひたすら中華鍋を振り回す料理人、路上で勝手にシートを敷いてゴミ同然のものを売っているおばさん。そして小食と呼ばれる小腹がすいたときに食べるようなスナックや魚肉の練り物を売っている屋台など香港のストリートには、いろんなスタイルが溢れている。それぞれに香港の匂いがある。コンクリートのビルに囲まれているにも関わらず、人の体温が伝わってくる。体温どころか全くの他人のなのにその人の生きるスタイルまで感じざる得ないようなこともある。しかもそのスタイルが自分の範疇に無い、唯一無二のスタイル。どうなってるんだ、香港?そんな想いが今でもある。香港が興味を掻き立てる。香港の街が放出する雑多なスタイルをより深く知りたくもなる。香港リサーチに出掛けたくなる。だから本屋でも香港本に手を伸ばす。今回の本は香港の旅行ガイドブック。

 2013年に枻出版社から出た「LOCAL NAVI 香港」は旅行ガイド本で、「食」「観光地」「買い物」を紹介している。巻頭の「ローカルベスト」というセクションでレストラン、観光地などを見せて、あとは香港をエリアごとに分類してそれぞれの名物レストランや雑貨のお店などを紹介している。他にカラフルな地図や謎の小人とコメントが出てくるのが特徴と言えば、特徴か。レストランやデパートの情報に使えるちょっとしたアドバイスがあるのもいい。今の時代、情報量や情報の新鮮度で言えば、ガイド本はネットに圧倒的に不利だ。けれども、旅行本は気分を高めてくれる。お洒落なつくりの旅行本もきっと旅行気分を高めるだろう。そういう意味で、このガイド本に出現する小人のコメントが、実は旅行気分を盛り上げていたことに気付いたのは驚きだった。香港本の新たなスタイルを垣間見た、そんな感じがした。

自分は、香港に行くときはガイド本を持っていかない。自分が好きになる店は自分で探し出すという気持ちがある。が、ガイド本から発掘作業はする。紙面から、言葉から、写真から刺激になりそうな香港を探し出す。「Local Navi香港」から発掘されたのは人だった。頻繁に登場する小人とコメント。意外なところに香港を感じるのが楽しい。

ど頭見開きのページが雑居ビルに看板。看板のベースの青色が良い。

時折紙面に入り込む謎の小人と言葉


地図のベース色のオレンジが尖沙咀の雰囲気に合う

重慶マンションの紹介。

2014/12/16

「香港頭上観察」赤瀬川原平

夏に香港の街を歩いていると頭上から水が落ちてくる事がある。水といっても、髪がずぶ濡れになるような量の水ではなく、何か頭上から落ちてきたなと気付く程度の水滴が落ちてくる。ビルの外に設置されたエアコンの室外機から落ちてくる水滴だ。香港では頭上から落下する水滴に気を付けないといけない。また頭上を眺めていると、どすんと人とぶつかるなんてこともある。「通路の真ん中で突っ立ってんじゃねえ」と顔に嫌悪感が溢れた通行人が立ち去る。ときには、路上で前方から歩いて来る人とぶつかりそうになり、その人をかわそうとすると、相手もかわそうとする。そして二人共、右にいったり、左にいったり、お互いがお互いの進行方向を邪魔してしまう。香港では人の動きに気を付けないといけない。また横断歩道を渡ろうとすると車がわずかな隙間を狙って進行しようとする。あの攻め攻めな態度に香港を感じられずにはいられない。入る込むスキさえ見つければ、あとは全力で突っ込むのみというあの瞬間的な判断力。香港では車の動きに気をつけないといけない。香港で気をつける場所。それは頭上、路上、そして横断歩道。つまりは香港人の行動。香港は観察するものに溢れている。観察するものは香港人の行動。そんな香港人の心意気を紹介している香港本が「香港頭上観察」だ。

赤瀬川原平の「香港頭上観察」は彼が香港の街を歩き、心に引っ掛かった対象を撮影し、そこに一言二言の文章を添えた本。写真がメインの香港観察本。ふと、香港の友人に「本」という字には、オリジナルという意味があるということを教えてもらったこと思い出す。香港本のほとんどが、旅行や食やショッピングに関するものだからそういう意味でもこの本は稀な部類でもある。この本は香港が中国に返還された1997年に出版されている。返還から17年が過ぎた。

本の構成は写真に、赤瀬川原平の香港観察が加味された数行の文章。そこから著者の香港観察の視点が伝わってくる。本の中に登場する写真は香港の街を普通に歩いていれば目にするものばかりだ。珍しい物や綺麗なものはない。本の中には香港のいつも通りの姿がある。が、赤瀬川原平が香港で感じた「垂直性」と「自制心の無さ」というものに興味がひかれる。垂直性というのは、本の中でも書かれているけど、「自分の地所を目いっぱい使うために、可能な限り背伸びしている」という上へ上へ伸びようとする気概。そして自制心の無さというのは「やれることは何でもやるという勢いで、それが建物のプロポーションににじみ出ている」ということ。赤瀬川原平は対象を観察し、香港人の行動規範を想像する。

香港の街を歩いていると香港人の態度が建物出ていて爽快感を得る事がある。そして香港はコンクリートに囲まれているにも関わらず、冷たい感じがしない。それは香港人が自分達が住んでいる街を自分好みにカスタマイズしたかのように、DIYの精神を感じるからだと思う。自分達が好きなように生きるんだ!という気概が建物、そして街から感じるのは清々しい。 そして建物が人間らしく感じてしまう。街の手作り感が香港にはあって、それが羨ましい。

香港に何度も訪れた人からすれば、見慣れた風景が本の中にある。これから初めて香港に行こうと思う人にとって、この本の中にはグルメの情報があるわけじゃないし、役に立つような情報は無い。本の中の写真は香港人の精神から出現したようなビルや増改築を繰り返した建造物、使い古された荷車、食堂のテーブル、工事現場などだ。この本には香港人の生きる姿勢が少しだけ写真を通して感じる事が出来る楽しみがある。
赤瀬川原平「香港路上観察」1997年 小学館

香港という字のタイポグラフィがはしゃいでいる

ビルのベランドを増改築。空をリノベーション。